クレーンの資格(運転士免許・技能講習・特別教育)を徹底解説!取得の難易度や費用についても
クレーンは建設現場や物流業界において欠かせない重機であり、効率的かつ安全な荷物の移動に貢献しています。しかし、クレーンを安全に操作するためには、専門的な知識と技術が求められます。このため、クレーンの運転にはさまざまな資格が必要となります。
本記事では、クレーン運転士を目指す方々が必要となるクレーン資格の種類や運転士免許、技術講習の種類、費用、難易度などについて詳しく解説します。クレーン資格の違いを理解し、自分にあった資格を取得しましょう。
全5種類あるクレーンの運転士免許
クレーン操作をおこなうための、クレーン運転士の免許には下記の5種類があります。
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クレーン・デリック運転士(限定なし) | クレーン・デリック運転士免許(クレーン限定) | クレーン・デリック運転士免許(床上運転式限定) | 移動式クレーン運転士 | 揚貨装置運転士(ようかそうちうんてんし) | |
操作可能なクレーン | 移動式クレーンを除くほぼ全てのクレーンとデリック | 吊り上げ荷重が5t以上のクレーン | 吊り上げ荷重が5t以上の床上運転式クレーン | 吊り上げ荷重が5t以上の移動式クレーン | 荷重5t以上の大型の揚貨装置 |
取得日数 | 1~2週間 | 約1週間 | 約4日 | 3~4日 | 約1週間 |
費用 | 13万~16万円 | 11万~15万円 | 10万~15万円 | 8万~10万円 | |
合格率 | 学科:約57% 実技:約48% |
学科:約60% 実技:約50% |
学科:約75% 実技:約60% |
学科:約70~80% 実技:約90% |
それぞれの運転士免許について、取得の目安日数や難易度、費用感について解説していきます。
【運転士免許①】クレーン・デリック運転士(限定なし)
クレーン・デリック運転士は、労働安全衛生法で定められた免許で、工場や倉庫、建設現場などで使用される天井クレーンや橋形クレーン、デリックなど、吊り上げ荷重が5トン以上のクレーンやデリックを運転するために必要な免許です。
この免許を取得すれば、移動式クレーンを除くほぼ全てのクレーンとデリックを運転できます。元々は「クレーン運転士(限定なし)」と呼ばれていましたが、2006年にデリック運転士と統合され、現在の名称に変更されました。
免許を取得するには、クレーンやデリックの構造や運転に関する知識を学ぶ学科講習と、実際の運転技術や合図の習得をおこなう実技講習に参加します。合計9時間を5日間(1日2時間)ほどかけて学び、講習を終えた後、学科と実技の試験がおこなわれ、合格することで免許を取得できます。取得にかかる期間は約1~2週間です。
試験の合格率は学科が約57%、実技が約48%と、少し難易度が高い資格です。ただし、しっかりと講習内容を復習し、対策をすれば合格は可能です。また、この免許だけではクレーン作業をおこなえず、玉掛けの資格も併せて必要になるため、事前に取得しておくことを推奨します。
取得費用は、受験料として学科試験が8,800円、実技試験が14,000円、教習所へ通う場合は、13万円〜16万円程度の費用がかかります。
費用を個人で負担する場合は高額に感じるかもしれませんが、会社が費用を負担してくれるケースもあるため、事前に確認しておくと良いでしょう。
【運転士免許②】クレーン運転士(クレーン限定)
クレーン・デリック運転士免許(クレーン限定)は、名称の通り、クレーンの運転に特化した免許で、デリックの操作はできません。この免許を取得することで、吊り上げ荷重が5トン以上の全てのクレーンを運転・操作することが可能となります。工場や倉庫、建設現場などで幅広く使用されるクレーン車や橋形クレーンの運転が主な対象ですが、デリックの操作が必要な場合は別途「クレーン・デリック運転士(限定なし)」の免許が必要です。クレーンのみの操作が必要な方にとっては、こちらの免許で十分です。
なお5トン未満のクレーンを操作したい場合は、後述するクレーン運転特別教育を受講すれば操作できます。
取得日数は、基本運転や応用運転、合図の基本作業など学科と実技合わせて合計20時間程度を4~5日間かけて学びます。結果的に取得までには、約1週間が一般的です。
この免許の難易度は、学科試験の合格率が約60%、実技試験の合格率が約50%とされています。しっかりとした準備を行えば合格は十分に可能ですが、実技試験がやや難関なため、事前にしっかりと練習しておくことが推奨されます。
取得費用は受験料として学科試験が8,800円、実技試験が14,000円です。教習所へ通う場合は、11〜15万円程度の費用がかかります。
【運転士免許③】クレーン・デリック運転士免許(床上運転式クレーン限定)
クレーン・デリック運転士免許(床上運転式クレーン限定)は、吊り上げ荷重が5トン以上の床上運転式クレーンを操作するための免許です。免許を取得すると、工場や倉庫などで使用される天井クレーンや橋形クレーンを床上から操作できます。この免許は、クレーン操作の中でも床上での操作に限定されており、クレーン車やデリックの操作はできません。
クレーン・デリック運転士免許(床上運転式クレーン限定)を取得するには、基本運転、応用運転、合図の基本作業などの教習を合計して4日間程度学びます。
他の免許と比較して、短期間で取得できる点がこの免許の魅力です。
難易度に関しては、学科試験の合格率は約60%、実技試験は約50%となっています。講習内容をしっかりと理解し、実技を適切にこなせば、特に問題なく合格できるでしょう。
取得費用は、受験料として学科試験が8,800円、実技試験が14,000円です。教習所に通う場合、11〜15万円程度かかります。
この免許があれば、さまざまな現場でのクレーン運転に対応できるため、コストに見合うメリットがあります。
【運転士免許④】移動式クレーン運転士
移動式クレーン運転士免許は、移動可能なクレーンを操作するために必要な資格です。この免許があれば、吊り上げ荷重が5トン以上の移動式クレーンを運転・操作できます。具体的には、トラッククレーンやラフテレーン、クローラークレーンなどの移動式クレーンが該当します。ただし、公道を走行する際には自動車運転免許も必要であり、玉掛け作業をおこなう場合には別途、玉掛け技能講習の修了も求められます。
この免許を取得するためには、全国にある安全衛生技術センターや都道府県労働局長登録教習機関で学科試験と実技試験を受ける必要があります。講習と試験のスケジュールは通常3~4日程度で完了し、合格率は学科が約75%、実技が約60%と比較的高めです。しっかりと講習内容を理解し、実技練習をおこなえば、多くの受験者が合格できるでしょう。
取得費用は、学科講習や実技講習、試験手数料を含めて10~15万円程度です。費用は受験する地域や機関によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
移動式クレーン運転士免許を取得すれば、建設現場や物流など幅広い業界での活躍が期待でき、特に大型のクレーンを使用する業務に携わることが可能になります。この資格は、現場での需要が高いため、キャリアアップを目指す方にとって有益な資格です。
移動式クレーン運転士免許の注意点は、免許の交付が満18歳以上である点です。受験資格には年齢制限がないため、講習や試験を無事に終えても、18歳を超えていなければ交付されないため注意しましょう。
【運転士免許⑤】揚貨装置運転士(ようかそうちうんてんし)
揚貨装置運転士(ようかそうちうんてんし)は、港湾で船舶に取り付けられたクレーンやデリックを操作するために必要な免許です。荷重5トン以上の大型の揚貨装置を使用するためには、この資格が求められ、他のクレーン運転士の免許では代用できないため、非常に専門的な資格です。この免許を取得すると、港湾荷役の際に船舶のクレーンを使用して荷物を陸に積み降ろしする業務が可能になります。
資格取得にかかる日数は、講習機関や受講スケジュールによりますが、通常は1週間程度です。また、試験の難易度は比較的低く、学科試験の合格率は70~80%前後、実技試験の合格率は90%を超えており、合格しやすい試験です。
揚貨装置運転士免許の取得費用は、学科講習や実技講習を含めた総額で8~10万円程度が相場です。受験費用として学科試験が8,800円、実技試験が14,000円が別途必要になります。また、資格取得後は、免許の交付を受けるために労働局へ申請する必要があり、免許は18歳以上でなければ交付されないため注意が必要です。
この免許を取得することで、港湾での作業に携わることができ、特に船舶に関わる物流や荷役の分野でのキャリアアップが期待できます。比較的取得しやすい資格ですが、専門性が高く、業界内での需要が高いため、資格を持っていると大きなメリットがあります。
全3種類あるクレーンの技術講習
クレーンに関する労働安全衛生法に基づく技術講習には、下記の3種類があります。
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小型移動式クレーン | 床上操作式クレーン | 玉掛け技能講習(1トン以上) | |
操作可能なクレーン | つり上げ荷重が1t以上5t未満のクレーン | 5t以上の床上操作式クレーン | 1t以上のクレーンなどで荷を吊り上げる際の玉掛け作業 |
取得日数 | 約3日 | ||
費用 | 約2~3万円 |
それぞれの講習の内容や講習の目安費用について解説していきます。
【技術講習①】:小型移動式クレーン
小型移動式クレーンは、つり上げ荷重が1トン以上5トン未満のクレーンを操作するために必要な資格です。特に工事現場や建設業界で広く利用されています。この技術講習を受けることで、小型クレーンを使って荷物の移動や設置作業をおこなえます。
資格取得のためには、「小型移動式クレーン運転技能講習」を受講する必要があります。講習は学科と実技に分かれており、学科ではクレーンに関する基礎知識や法令、安全対策について学びます。通常、学科は約13時間、実技は7時間ほどの内容になります。合計で約3日間の講習で資格を取得できるため、比較的短期間での取得が可能です。
費用は講習機関や地域によって異なりますが、一般的には3万円程度が相場となります。受講費用にはテキスト代が含まれる場合が多く、資格を持っている人や特定の条件を満たす場合は、受講費用が減額されることもあります。また、講習後には修了試験が実施され、これに合格することで「小型移動式クレーン運転技能講習修了証」が交付されます。
【技術講習②】床上操作式クレーン
床上操作式クレーンは、工場や倉庫などで使用されるクレーンで、操作者が床上から直接操作する仕組みです。ペンダントスイッチを使用してクレーンを操作し、荷物と一緒に移動する必要があります。このクレーンを運転するためには、労働安全衛生法に基づき、つり上げ荷重5トン以上のものについては「床上操作式クレーン運転技能講習」を修了することが義務付けられています。
技能講習は通常3日間、学科と実技の内容が含まれます。学科ではクレーンに関する基本知識、法令、安全管理に関する内容を学び、実技では実際の操作方法や安全な運転手順を習得します。最終日には修了試験が実施され、これに合格すると「床上操作式クレーン運転技能講習修了証」が交付されます。この資格を取得することで、5トン以上の床上操作式クレーンの運転業務に従事することが可能です。
受講費用は、一般的に2~3万円程度で、講習機関や地域によって若干異なることがあります。また、床上操作式クレーンを使用する現場で玉掛け作業もおこなう場合、別途「玉掛け技能講習」を修了する必要があります。資格の取得自体は難易度が比較的低く、必要な知識と技術をしっかり身につければ試験も難なくクリアできるでしょう。
【技術講習③】玉掛け技能講習(1トン以上)
玉掛け技能講習(1トン以上)は、クレーンなどで荷を吊り上げる際に、ワイヤーロープやフックなどを適切に使って荷を掛けたり外したりするために必要な資格です。クレーンの運転自体は他の資格が必要ですが、玉掛け作業はまた別の技能を要求されます。特に吊り上げ荷重が1トン以上のクレーンや移動式クレーンにおいては、玉掛け技能講習を修了した者でなければ業務に従事することができません。
講習内容は、クレーンの基本構造や使用する吊具(ワイヤーロープ、フック、シャックルなど)の取り扱い方法、また、荷を安全に吊り上げるための力学や指示方法についてです。実技では、実際に玉掛け作業を行い、安全に業務を遂行するための技術を身につけられます。
講習の所要日数は、学科が2日間、実技が1日間の合計3日間です。学科では、クレーンに関する基本的な知識や関係法令を学び、実技では実際の玉掛け操作を体験します。講習の最後に修了試験が実施され、これに合格することで「玉掛け技能講習修了証」が交付されます。
受講費用は、約2万円程度が相場で、受講する場所や既存の資格に応じて金額が多少変動する場合があります。資格取得の難易度はそれほど高くなく、講師の指導に従い、実技や学科で学んだ内容を確実に理解すれば、無理なく修了できるでしょう。玉掛け技能講習を受講することで、現場での安全な作業環境を確保し、クレーン運転者とスムーズに連携することが可能となります。
全4種類あるクレーン操作ができる特別教育
最後にクレーンを操作できる特別教育を解説していきます。特別教育には下記の4つがあります。
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小型移動式クレーン | クレーン運転特別教育 | デリック特別教育 | 玉掛け特別教育 | |
操作可能なクレーン | 吊り上げ荷重が1t未満の移動式クレーン | 吊り上げ荷重5t未満の固定式クレーン | 吊り上げ荷重5t未満のデリック | つり上げ荷重が1t未満のクレーンや移動式クレーン、デリックの玉掛け作業 |
取得日数 | 1~2日 | |||
費用 | 1.2~2万円 |
それぞれの特別教育について解説していきます。
【特別教育①】小型移動式クレーン
小型移動式クレーンの特別教育は、吊り上げ荷重が1トン未満の移動式クレーンを操作するために必要な資格です。クレーンを操作する際には、法令に基づく特別な教育を受けることが義務付けられています。この特別教育を修了しないと、労働者は業務に従事できません。特に、建設現場や物流業界では、小型移動式クレーンの操作が頻繁に行われるため、この資格が不可欠です。
特別教育のカリキュラムは学科と実技の両方で構成されており、合計13時間の講習を受ける必要があります。具体的には、学科9時間(クレーンの基礎知識、力学、原動機・電気に関する知識、関係法令など)と実技4時間(実際のクレーン操作や運転に関する合図の練習)です。この特別教育を受講することにより、クレーンの安全な操作方法をしっかりと習得できます。
小型移動式クレーンの特別教育は、通常1〜2日間で完了します。学科と実技のバランスがとれた講習で、現場での実践にすぐに役立つ知識を得られます。また、この特別教育は、どの教育機関でも同様の内容で提供されており、時間的負担が比較的少ないため、多くの労働者が受講しやすい教育です。
費用は、受講場所や講習機関によって異なりますが、一般的に1.5~2万円程度が相場です。また、すでに関連資格を持っている場合は、日数や受講費用が短縮されることもあります。
【特別教育②】クレーン運転特別教育
クレーン運転特別教育は、吊り上げ荷重5トン未満の固定式クレーンを操作するために必要な資格です。労働安全衛生法やクレーン等安全規則に基づいて、この特別教育を修了することが義務付けられています。クレーン作業は重量物を扱うため、適切な操作ができないと労働災害を引き起こすリスクが高いため、事業者は労働者に安全な運転技術と知識を習得させる必要があります。
この教育では、クレーンの構造や操作に関する基本的な知識、運転時の安全対策、そして関連法令について学びます。講習は1〜2日で修了可能で、学科と実技に分かれています。学科ではクレーンに関する理論を、実技では実際の操作を通して安全な運転技術を習得します。
受講料は、約1万2千円程度です。受講費用は比較的安価ですが、事業者によっては助成金を利用できる場合もあります。この特別教育を受けることで、クレーン作業に必要な安全知識と操作技術を身につけることができ、現場での事故防止に大いに役立ちます。
【特別教育③】デリック特別教育
デリック特別教育は、吊り上げ荷重5トン未満のデリック(固定された吊り装置)の操作に必要な資格です。この特別教育を修了することで、労働者はデリックの運転業務に就くことが可能になります。デリックの操作は重量物を扱うため、作業中の安全を確保するために適切な技術と知識が必要です。5トン以上のデリックを操作する場合には、特別教育ではなく、クレーン・デリック運転士免許が必要になるので、覚えておきましょう。
デリック特別教育の内容は、デリックの構造や原理に関する学科と、実際の操作方法を学ぶ実技で構成されています。講習期間は1~2日程度で、学科と実技を合わせて修了できます。受講料は約1万5千円程度で、テキスト代を含むことが一般的です。
【特別教育④】玉掛け特別教育
玉掛け特別教育は、つり上げ荷重が1トン未満のクレーンや移動式クレーン、デリックの玉掛け作業をおこなうために必要な資格です。玉掛け作業は、重量物を扱うため適切な知識と技術が求められ、作業者の安全を確保するためにも重要な役割を果たします。
特別教育では、玉掛け作業に必要な基本的な知識と技術を学ぶことができます。具体的な教育内容は、荷の重心の確認、適切な玉掛け用具の選び方、安全な吊り上げ角度の維持、作業前の点検方法などです。これらを習得することで、事故を未然に防ぎ、現場での安全な作業が可能になります。
玉掛け特別教育は、一般的に1~2日程度です。学科と実技を含む講習がおこなわれ、内容は玉掛けの基礎知識から実際の作業手順までを網羅します。費用は1.2~1万5千円程度です。
この特別教育を修了することで、つり上げ荷重1トン未満の玉掛け作業に従事できるようになり、現場での安全性を向上させることができます。また、労働災害を防ぐために必要な知識を体系的に学ぶことができるため、業務をより効率的かつ安全に進めることが期待されます。
まとめ
運転士としてのクレーンの資格を取得することは、運転技術を向上させるだけでなく、将来的なキャリアの幅を広げる重要なステップです。資格を持つことで、より多くの運転業務に携わる機会が増え、安全にクレーンを操作するための知識と技術を身につけることができます。これにより、運転士としての市場価値も向上し、安定した職業生活を送ることができるでしょう。クレーンの資格取得を目指し、さらなるスキルアップを図ることは、運転士としての未来を切り開く鍵となります。
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- クレーンの技術講習には「小型移動式クレーン」「床上操作式クレーン」「玉掛け(1トン以上)」の3種類がある。
- クレーン操作ができる特別教育には「小型移動式クレーン」「クレーン運転特別教育」「デリック特別教育」「玉掛け特別教育」の4種類がある。