長距離トラックこそFC(燃料電池)が最適
水素の安定供給には規制緩和も必要
「爽やかな笑顔とカラッとした透き通るような声…まるでアニメ本から飛び出して来たようなショートカットの女の子」…元内閣総理大臣、小渕恵三氏の地盤(群馬5区)を継ぎ、若干26歳でトップ当選を果たして政治の表舞台に登場した小渕優子氏を最初に見た時の印象である。あれから17年の歳月を経て小渕優子氏は44歳。議員になってから授かった2人の子供は10歳と8歳に成長し、空手の稽古に励んでいるという。
2014年10月号で対談した小池百合子氏(現東京都知事)がFCV(燃料電池自動車)を中心とした水素社会実現を促進する研究会の会長であったので、FCトラックの普及促進に期待したが、都知事に立候補した時点で、その会の会長は小渕優子議員にバトンタッチされた。その縁もあって何とか小渕議員とも面談したいと考えていたが、10月号で対談した㈱LUCの内田光彦会長が地元で親しいことを知り、仲介を依頼したところ快く引き受けて頂いた。
12月号で経済産業省の河野太志自動車課長の対談を掲載した(32P)直後でもあり、本誌としてはグッドタイミング。FCトラックの普及促進と課題についても十分伺うことが出来たし、筆者の提案に賛同を得ることも出来た。
先端技術のブレーキシステム企業に勤務する倅(篤)と生年月日がほぼ近い小渕議員は誠実で勉強熱心。凛とした立ち居振る舞いは現代女性の生き様を身をもって示しているようである。
小渕優子氏(元経済産業大臣・衆議院議員)FCV(燃料電池自動車)を中心とした水素社会実現を促進する研究会会長
新年スペシャル対談
テレビ局を辞めて総理の私設秘書に…
□秋林路 本日はご多忙のところ有り難う御座います。本誌は物流の中でもとり分けトラックと運送の分野を中心に扱っております。
ご承知の通り日本は本格的な少子高齢化時代を迎えまして、トラック運送業界ではドライバー不足が深刻になっております。また、技術面ではトラックも自動運転や電気自動車が現実のものになって参りました。優子さん(小渕優子議員、以下同じ)はFCV(燃料電池自動車)を中心とした水素社会実現を促進する研究会の会長も務めておられますので、後ほどその取り組みについてお伺いしたいと思います。ただ、折角の機会ですので、ご尊父との思い出などもお聞きしたいと思います。ここに掲げてあります『平成』の額は本物ですか?
■小 渕 いえ、由緒正しい偽物です(笑)。実は本物は暫くの間竹下登先生のご自宅に保管してあったのですが、竹下先生がご他界なさった後、国立公文書館に預けられることになり、その時に2点のレプリカを作成頂きまして、そのひとつをここに飾らせて頂いております。
□秋林路 そうでしたか。私は昭和の生まれですが、この『平成』の元号をご尊父がテレビの前で公表されました時のことを鮮明に覚えています。あれから29年も経ました。再来年5月には新しい元号になると思いますので、順調に行けば私も3世代を生きることになります。
■小 渕 そうですね。再来年は東京オリンピック・パラリンピックを翌年に控えていますし、歴史的な年になると思います。
□秋林路 「内平かに外成る、地平かに天成る」の語源からなる“平成”は歴代総理の師と崇められた故安岡正篤先生が命名されたと聞いておりますが、当時全国師友協会で安岡先生のご講義を聴講する機会に恵まれました。倅は優子さんと同じ昭和48年に生まれたのですが、安岡先生のお名前の一字を頂いて篤あつしと名付けました。今はブレーキシステムでは世界第二位の会社に勤務しております。
■小 渕 そうですか、安岡先生のお名前から…。生まれ年も同じで奇遇ですね。
□秋林路 はい、子供世代が政治の中枢を担う時代になったことは感慨ひとしおです。優子さんは大学卒業後はTBSにご入社ですが、いつ頃から政治家を志しておられたのですか。
■小 渕 父は私が生まれた時からずっと政治家でした。子供もある程度年齢が嵩むと選挙の手伝いをさせられますから、ずっと政治の近くには居たのですが、政治に関心があるのと、自分が政治をやるのとでは大きな違いがあるんですね。私としては、父の政治家としてのサポートはして来たけれども、自分でやるという感覚ではなかったです。
□秋林路 でも、大きな転機に見舞われる事になった訳ですよね。
■小 渕 実は、TBSに入社して何年目かに父が総理大臣になったんですね。ちょうど景気の悪い時期でしたし、とても不人気な総理でしたので、毎日マスコミのバッシングを受けていて、私としては可哀想で見てられなくて、局の近くだったので、仕事が終わってから首相官邸に「大丈夫?」と父を見舞っていたんです。父は「私は大丈夫だから、お前は自分の仕事をキチンとやりなさい。」と言ってました。でも、当時の父はホントに忙しくて、何かあったらいけないので、パジャマに着替えても横にならなくて、上着を羽織ってソファーで過ごす状態がずっと続いていたんです。そんなにくしゃくしゃになって働いている父を見ていて、ここで父を支えないと私は一生後悔することになると思って、TBSには未練もあったのですが、局を辞めて父の私設秘書になったんです。
□秋林路 総理大臣の秘書ですから、いきなり政治のど真ん中ですよね。
■小 渕 そうですね。政治を間ぢかで見るという意味では、非常に良い勉強をさせて頂きましたし、地元群馬の皆様との交流も出来るようになりました。それと、父が夫婦で海外に行くときには一緒に行って、母のサポートもさせて頂くことが出来ました。
新年スペシャル対談
突然の別れと政治家への転身
□秋林路 総理大臣の仕事が激務であることは、今の安倍首相を見ていても分かります。優子さんが秘書として近くに居てくれることが、どれだけ大きな支えになったか、言葉には尽くせないと思います。
■小 渕 でも突然父が倒れてしまって…。4月に秘書になって翌年の4月に倒れて約一ヶ月半意識がなくて、そのまま逝ってしまったので「お前後を頼む」とか引き継ぎは一切出来なかったんです。でも『後継は優子さん』と新聞に出てしまって、やるしかない状態になっていくのですが、当時、地元群馬で最もお付き合いが多かったのが私でしたので、地元の皆様の 意向が強く反映されたと思います。
□秋林路 小渕家はお祖父さん(初代小渕光平)も叔父さん(二代目小渕光平)も政治家だし、ましてやご尊父は現役の内閣総理大臣でしたから、地元の皆さんは大変だったと思います。優子さんは若干26歳でしたからね。
■小 渕 政治家がいかに大変な仕事であるか、という事は小さい頃から父を見て育っていますので、よく分かっていました。26歳の若さで良いのだろうかという想いはありましたが、それこそ父が命をかけて取り組んで来た仕事ですから、このままにしておいて良いのか、という気持ちはありました。とくに私は父親っ子、ファザコンの極みみたいなところがありましたので、父に認めて貰いたいという気持ちも強くて、政治のお仕事をすることが、父の意志を継ぐことにもなるし、地元群馬の皆様に何か貢献出来るのではないかと思って、政治家になる事を決断しましたね。
□秋林路 正直言って凄い決断であったと思います。私の26歳を振り返ってみますと、まだ右も左も分からない駆け出し記者でしたので、その年齢でトップ当選を果たしたのは驚異的です。
■小 渕 実は、父も26歳で初当選していますので、何か因縁めいたものを感じています。しかも父も私も干支は同じ丑年なんですよ。(笑)
□秋林路 そう言えば、ご尊父の父君(優子さんのお祖父さん、小渕光平)も亡くなられたのは同じ順天堂大学医学部附属順天堂医院で、死因も同じ脳梗塞だったそうですね。
■小 渕 そうなんです。ただ祖父が亡くなったのは、父が19歳の時ですから、立候補するまでに少し時間があったのですが、私の場合は即でしたので、あまり考えるゆとりもなかったですね。
□秋林路 それが“若さの力”だと思います。それに優子さんの場合は“美貌”と地元群馬の絶大なバックアップがありましたので、一躍『時の人』になられたと思います。
■小 渕 実は、私自身が26歳で何が出来るのか、大きな不安があったのは確かなのですが、マスコミの方が「その若さで大丈夫か?」と聞かれる度に、地元の皆さんが「大丈夫だ、我々が育てるから…」と応えて下さったんです。それはとても有り難いことでした。
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加速度的に進化する技術にも夢を求めて
□秋林路 明治維新とか見ても、歴史を変えたのは若い世代です。3年後には東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、その辺りを節目に過去の常識が通用しない時代に突入するのではないかと思っています。
この時代変化を欧州では“第四次産業革命”と呼んでいるようですが、産業機械や自動車、ロボット等にもAI(人工知能)が搭載されるので、国際間の枠組みも経済の仕組みも加速度的に変化するのではないかと思います。
■小 渕 そうですね。技術は大きく進化していますので、予測し難いことは確かです。AIも物凄く大きな影響力があるかも知れません。技術には用途によって正と負の両面がありますが、進展する技術は誰にも止めることは出来ません。ただ正を活かす一方で、負の側面を封じ込める事は可能です。それが政治であったり、人間の知恵ではないかと思います。
□秋林路 そうですね。火は人類最初の発見ですが、エネルギーとして大きく貢献してきました。もし、この火を悪用する世の中になっていたら、世界は終末を迎えていたかも知れません。人類が発明した原子力は更に大きなエネルギーを発揮しますので、その正しい取扱いが、いま人類に突きつけられているのだと思います。
■小 渕 AIも同じですね。コントロールを誤れば、映画で観たSF(サイエンス・フィクション)の世界を招きかねない。でも人類の幸せのために活用すれば、不可能であった事が可能になるかも知れません。要は負の側面への対応を怠らないことが大切です。
□秋林路 実は、本誌12月号では経済産業省製造産業局の河野太志自動車課長にインタューしています。(32P参照)
自動車産業は日本経済全体として特別重要な分野です。世界の自動車産業は国を挙げてEV化(電気自動車)を打ち出しているのですが、日本は未だ方針が定まらないのが現実です。自動車産業は非常に裾の広い業界ですので、EV化を一気に進めると、産業構造に大きな歪ひずみが生じることになりかねません。しかし、時代は加速度的に進化していますので、手を拱いていては世界に置いてけ堀を喰らうことにもなりかねません。
■小 渕 そうですね。自動車は日本が得意とする物づくりが発展していく中で、技術を開発して、これほどのリーディング産業に発展してきました。今日でも自動車産業が日本経済を牽引していることに変わりはないのですが、正直言って自動車関連産業の皆さんは頭を悩ませていると思います。何故かと申しますと、自動車産業が単に物づくりだけではなくなって来たからだと思います。
既に量産の自動車にもEVが登場していますし、私が力を注いでいるFCVも現実になっています。更に、ここに来てAIが加わって来ましたので、日本が得意とする物づくりに留まらなくなってきたという事だと思います。
ただ、この点は悲観的に考えれば頭の痛い問題かも知れませんが、もしかしたら新たな可能性を秘めたテーマかも知れないのです。
□秋林路 時代が急速に変わる…だから革命なのですが、私は第四次産業革命後の姿は誰にも見えていないのではないか、と思います。
■小 渕 そうですね。今、物づくりのリーディング産業である自動車について申し上げたのですが、実はこれは国政として考えていかなければならない課題だと思っているんです。内閣府ではいま税制調査会を開いていまして、その中に自動車税をどうするか、というテーマがあります。これは来年度から本格的に取り組むテーマですが、いろいろご意見を聞く中で、単に税を下げれば良いのか、という疑問もあります。と申しますのは、この先の自動車に対するニーズは一人に一台の時代じゃなくなって来ているし、自動運転がどうなるのか、とか自動車がリーディング産業でなくなったら何処が日本経済を引っ張って行くのか、という事を広く深く考えなくてはいけない。この点は私たち政治家も、経産省を始めとするお役所も頭を悩ませているところです。
□秋林路 革命は現体制を新勢力が打ち破ることで実現しますので、理論的には次の時代が見えてくる訳ですが、イノベーションが加速的に変化していますので、なかなかその姿を掴みきれないところに困惑があるように思います。
■小 渕 新時代の姿についてはなかなか解りにくいですね。と申しますのは、私たちの子供世代が仕事に就く頃には、6割の子供は私たちが知らない新しい仕事に就くだろうと言われています。私たちが知らない仕事が6割を占めるのであれば、今その時代を想定することは出来ないという事です。
□秋林路 確かに、新しい発明があると新たな産業が生まれるし、淘汰される産業もあります。1540年代に鉄砲が伝来すると、刀鍛冶は役割を終えて火器産業が台頭します。陸・海・空のあらゆる分野でそういう事を繰り返して来たし、通信や報道、医療や薬品など全ての分野でイノベーションを繰り返して来たので、手に職をつけても役に立たなくなる場合も沢山ありました。要は、このイノベーションが加速度的に変化するので対処がより難しい時代になるという事だと思います。
■小 渕 確かにそうだと思います。AIというのは、人知と関係が深いので、物凄い威力を発揮するかも知れませんし、計り知れない怖さもあります。でも人類はそういう事を克服して進化してきたと思うんですね。もしかしてSFの観すぎと言われるかも知れませんが、このイノベーションに可能性を求めて、日々努力しなくてはいけないし、その対応力を養うことが夢に繋がるのではないかと思います。
□秋林路 その点同感です。江戸幕府が開かれてまだ400年そこそこですが、当時の人々が自動車やパソコン、スマホ、飛行機、更には人類が月に降り立つなど想像出来なかったと思います。技術は産業革命以来、加速度的に進化して来ました。核の使用で大きな過ちも犯しましたが、破滅には至っておりません。この先は後進の知恵を信じるしかないと思います。只、予測できる事に対しては国も企業も最大限の努力を傾注しなければなりません。
■小 渕 その通りですね。自動運転等の新技術につきましては経産省、国交省など関係省庁が積極的に取り組んでいますし、関連企業も社運をかけて取り組むと思います。
小渕優子(元経済産業大臣・衆議院議員)と対談する本誌・秋林路(左)
小渕優子(元経済産業大臣・衆議院議員)
トラックこそFC(燃料電池)が最適
□秋林路 イノベーションに対する企業の取り組みは、ビジネスの関係がありますので、表面に出にくいのですが、FCについては私なりの持論が御座います。ご承知の通りバスは既にFC大型バスが開発されています(表紙参照)。東京オリンピック・パラリンピックに向けて都バスの車両台数も増えてくると思います。しかし、トラックは未だ1台もFCが製作されていません。一般の人は「あんなに重いトラックを電気(モーター)で走らせるのは無理なのではないか」と疑問を呈しますが、動力源となるモーターは構造がシンプルですし、用途に合わせて動力は自由に設計できます。新幹線がモーターを動力源にしている事を考えれば明らかです。
■小 渕 なるほど。それで“持論”と申されますのは?
□秋林路 私はトラックこそFCが最適ではないかと考えています。FCは水素と空気中の酸素によって電気を発生させ、バッテリーを経由してモーターを回して走行します。EVとの違いは発電機能を備えている点です。
■小 渕 何だか私の「FCV(燃料電池自動車)を中心とした水素社会実現を促進する研究会」と関係がありそうですね。
□秋林路 その通りです。FCVの課題は水素の調達と供給です。水素は現在のFCVが使用する程度でしたら足りると思いますが、全ての車両がFCVに代わるとしたら絶対的に足りなくなります。只、水素は様々の方法で生産が可能ですので、何時の日にか安価で大量に生産する方法をエンジニアは開発すると思います。
■小 渕 燃料電池というのは、FCVだけではなくて、非常に多くの分野で活用できますので、エネルギー問題とも関係があります。
□秋林路 近代日本は、エネルギーの多くを石油に依存しているのですが、「油断大敵」の言葉が示すように、非常に不安定なエネルギーです。もし、水素を安価で大量に生産することが出来れば、日本のエネルギー事情は大きく変化する事になります。
■小 渕 日本のエネルギーは石油、天然ガス、石炭そして水素など…、特定するのではなくて、用途に合わせた適正化が必要だと思います。
□秋林路 そうですね。そういう意味でも私はトラックこそFCが最適だと考えているのです。水素で問題なのはコストと供給方法です。既に量産型のFCが発売されていますので、国の助成を得て全国にH2(水素)ステーションの建設が進められていますが、問題は“水素の物流”です。水素は高圧ガスの対象になりますので、輸送は強靭なボンベに詰めて運ぶことになります。また保管方法についても非常に厳しい制約がで定められています。
私はこの辺りで水素の取り扱いに関する現在の規制が、適正であるのか否かを再検証する時期に来ているように感じています。現代の技術を駆使すれば、水素はもっと安全で簡単に取り扱う方法があるのではないかと思います。
■小 渕 水素は一般に“危険”の印象が強いんですね。ですから取り扱い基準も非常に厳しくなっているように思います。ただ、水素は空気よりも軽いので、空気中に放出しても蒸発するので、ある意味では安全を担保し易いと言えます。
□秋林路 そうですね。イメージが先行して規制が厳しくなっているように思いますので、容器の形状や強度、取り扱いについても、是非見直しを行って欲しいと思います。
■小 渕 確かに必要以上に取り扱い基準が厳しいと、産業の発展を阻害することになりかねません。
□秋林路 水素をFCトラックに供給するためには供給基地(ステーション)が必要です。高圧ガス保安法ではこの供給ステーションの場所や構造についても非常に厳しい制約が設けられています。トラック運送事業者は現在全国に約6万2000あると言われていますが、車両を保有する事業者は事業所ごとに車庫を確保しています。この車庫用地を水素の供給ステーションとして活用することが出来れば、FCトラックが実用化した際には、水素の供給に関する課題は大きく前進することになります。
■小 渕 それは妙案かも知れませんね。FCトラックの開発と同時に供給インフラを整備することも大切な課題です。
□秋林路 FCトラックはエネルギー問題とも密接に関係しています。もし世界情勢の変化で原油の輸入が滞ったり高騰すると、トラック運送は非常に大きな痛手を被ることになります。しかし、水素が安価で安定的に供給できれば、トラック運送の経営も安定します。
■小 渕 経済産業省は経済全般を見ますが、私が経産大臣になった時には、原発がまだ動いていませんでしたので、お仕事の8割はエネルギー問題でしたし、予算委員会の質問も8割はエネルギーでした。ですから日本にとってエネルギーがいかに大切か。資源のない日本がエネルギーを確保する為に、これまでどれ程の苦労を重ねてきたのか。そして、今後どれほどの心配があるのか、痛切に感じて勉強もしました。
我々はエネルギーに関して、安全・コスト・CO2、そして安全保障の4要素を満たすエネルギーを求める訳ですが、日本で見ますとね、その全てにパーフェクトなエネルギーはないんです。例えば石油はCO2の問題があるし、原発は安全が問題です。だから日本は長所も短所もあるエネルギーをバランス良く確保する。石油がNGになっても天然ガスや石炭が使えるようになるかも知れません。それでもこの水素は、先の4つの条件の中で3つは満たしているんです。問題はコストだけです。
水素につきましては入口はFCVですが、将来的には発電に繋げたい訳です。先般、オーストラリアを視察しましたが、あちらは褐炭が山ほど余っていますので、それを液化して日本に運び水素を沢山使えるようにする。この水素発電については既に日本とオーストラリアの間でプロジェクトがスタートしていて、サプライチェーンの実証に入っています。これが本格的になると、水素に対する期待が一般にも高まって来るのではないかと思います。
□秋林路 でも水素はエネルギーとしての認知度はまだ低いと思います。
■小 渕 我々としては、国民理解を得るために先ずFCVを中心に水素を広めていまして、既に2000台のFCVと100箇所近い水素ステーションがあります。ただ残念ながらFCVは大量生産が出来ないのですよね。
□秋林路 国民のコンセンサスを得るのは時間がかかります。でも水素の時代は必ず訪れると思います。
■小 渕 そうなんです。CO2フリー、環境破壊の心配がないエネルギーという意味では一番に水素が挙げられます。これまで電気は貯蔵出来ないという点が問題でしたが、水素は貯蔵可能ですので、ホントに期待して良いと思います。なので国としては規制の見直しとインフラ整備の両輪でやっていく。そして、東京オリンピック・パラリンピックが目前に迫っていますので、この機会に世界にどうアピール出来るか、ここが課題です。
□秋林路 先般開催されました東京モーターショーでも展示されましたが、FCバスは既に完成していますので、都バスを中心に2020年には世界にアピール出来ると思います。只、FCトラックはまだこれからです。
■小 渕 特に長距離の大型トラックはエネルギー密度が高いのでFCに向いていると思います。しかも、トラックが排出するCO2は大変多いので、これをゼロにする事が出来れば環境への貢献度は非常に高くなります。そういう意味ではトラックメーカーさんに出来るだけ早くFCトラックを作っていただきたいですね。
それから以前、FCバスついて自動車メーカーさんにお話を伺ったことがあるのですが、「これまでのバスと違って排気ガス特有の臭いがないのと乗り心地が良い。」という事でした。これは長距離トラックにも言えるのではないでしょうか。
□秋林路 なるほど。現実にはまだFCトラックが無いので比較出来ませんが、エンジンの振動とギアチェンジのショックがないのでFCトラックは乗り心地が良くなると思います。それと、トラックは車体が大きいので、水素ボンベやバッテリーを搭載するスペースも十分にあります。
■小 渕 実は、トラックはFCに向いていると思って、補助金とかないのか調べてみたのですが…今のところ無いですね。
□秋林路 その点は大事なポイントです。トラックメーカーやユーザー団体にも相談して受け皿を作りますので、是非ご支援をお願いします。(笑)
■小 渕 確かに、トラック事業者さんもFCにもう少し関心を寄せて頂いた方が良いと思います。
□秋林路 実は、トヨタ自動車は2017年10月に米国カリフォルニアで燃料電池システムを搭載した大型トラックの実証実験を開始すると発表しているし、アメリカのテスラも牽引用大型トラックのEV車を2019年に発売すると発表しているんです。欧米やインド、中国なども2025年から2040年をメドにレシプロエンジン車の販売を禁止する方針を打ち出していますので、世界は急速にEVに向けて動いています。
■小 渕 日本はEVとともにFCの促進も図るべきだと思います。
新年スペシャル対談
小渕優子氏(元経済産業大臣・衆議院議員)
学生時代は演劇とゴルフ
□秋林路 FCも動力源がモーターという意味ではEVと同じです。一日も早く水素を低コストで多量に供給する仕組みを構築することが大切です。
ところで、本日は折角の機会ですので、優子さんの人となりも少し伺っておきたいと思います。小渕家は元々群馬を中心に産業発展に努め、優子さんのお祖父様は群馬県のトラック協会長もなさっておられますね。
■小 渕 そうなんです。そのご縁もありますので、私も自民党のトラック輸送振興議員連盟に名前を連ねさせて頂いております。
□秋林路 このトラック運送業界はゴルフ好きのオーナーが多いのですが、学生時代はゴルフ部でご活躍されたとか…。
■小 渕 はい。高校と大学はゴルフ部でした。ですからゴルフは随分打ち込んだのですが、子供が出来てからは、朝早くから一日中かかってしまうので、もう10年位はクラブを握っていません。
□秋林路 学生時代のゴルフですと、基本に忠実ですし練習量も多いので、良いスコアを出しておられたと思います。
■小 渕 そうですね。当時は夏休みもキャディをやりながらゴルフ場に籠もって練習していたので結構上手でしたよ。(笑)
□秋林路 ゴルフをやって良かった点は何か御座いますか。
■小 渕 父が政治家でしたので、一緒に過ごす時間がホントに少なかったのですが、ゴルフは一緒に居る時間が長いので、父はとても喜んでくれました。ですから、父は、ゴルフは私と…美術館に行く時はお姉ちゃん、海外に行く時はお兄ちゃん…と言った具合でしたね。
□秋林路 それは子供たちともバランス良く交流できたと思います。どうしてゴルフをやる事に?
■小 渕 実は、こう見えても体育が苦手で、小学校の時は走るのもボール競技もダメで、成績も3以上頂いたことが無いんです。それで苦手意識を克服したい気持ちもあって運動部に入ろうと思ったのですが、人様に迷惑をかける運動部には入れないと思って捜していたら、見つかったのがゴルフという訳です。(笑)
□秋林路路 それは微笑ましいというか、優子さんらしい選択です。私は剣道でしたので、個人競技だけれども相手が居るところが違います。
■小 渕 私の子供ふたりにも何か武道をさせたいと思っていたのですが、4歳と2歳になった頃からよくケンカをするようになりました。それで、私は群馬県少林寺拳法連盟の会長ですので、少林寺をやらせようと思ったのですが、4歳と2歳では小さすぎてダメと言われて、空手になりました。
□秋林路 空手も良いのではないですかね。相手に対する礼を重んじるという意味では武道に通じていると思います。いま何歳ですか。
■小 渕 10歳と8歳になりました。空手も練習の最後は乱取りといって防具を外して、素手で相手に立ち向かっていますよ。
□秋林路 それは将来が楽しみです。優子さんは演劇もなさったようですね。
■小 渕 はい、小さい頃からお芝居を観るのが大好きでしたから、母が劇団四季にキャッツを観に連れて行ってくれたのが印象的だったのと、私の好きな演劇のマンガがあって、それで中学では演劇部に入ったんです。
□秋林路 女子にはよくあるパターンです。実際ステージにも立っておられたのですか。
■小 渕 はい、最低一年に一回は発表会がありましたし、3年生では部長もやったので結構熱心でしたよ(笑)。私は今でも選挙演説で喉を傷めることはないのですが、あの当時の発声練習が良かったのではないかと思います。
□秋林路 なるほど。選挙は確かに喉を使いますね。でも高校でゴルフに行かないで演劇を続けていたら、この美貌ですから今頃は大女優になっていたかも知れませんよ。
■小 渕 お口が上手ですね~(笑)。今となってはこのお仕事を天職と思って務めさせて頂いております。
□秋林路 そうですね。今は公人ですので、政治が全てだと思います。ただ、この先少し時間が出来たら、何かやりたいこと御座いますか。
■小 渕 日本も大事ですが、やはり世界の子供たちも元気に育って欲しいじゃないですか。勿論、政治家としても出来ることですが、私個人としてもそういう想いは強く持っています。
□秋林路 黒柳徹子さんはユニセフで頑張っておられますが、生まれ育った地域や国が違っても、同じ人の子ですから、幸せになる権利は平等です。そういう気持ちを持ち続けることはとても大切だと思います。
ご尊父は志半ばで病に倒れる結果になりましたが、草葉の陰では優子さんに政治家の頂点を目指すことを望んでおられるように思います。健康に留意してお仕事に励んで下さい。本日はとても貴重なお話を有り難う御座いました。
来る第4次EVブームで日本勢はどう向き合うべきか
今年に入って急にEVがブームとなっています。2006年頃、経産省自動車課の課長補佐だった私は、東京電力の姉川さんと一緒に電気自動車の普及に積極的に取り組んでいました。スバルや三菱自動車が電気自動車を市場投入するとともに、リチウムイオン電池がいよいよ自動車の世界に本格的に使われるようになるなど、まさに日本がEV大国として世界をリードしていた時期でした。ところが、現在の第4次EVブームではどちらかというと日本が世界から追い込まれている印象があります。そこで、第3次EVブームの立役者である姉川さんより来る第4次EVブームに日本勢としてどう向き合うべきかを伺いたいと思います。(伊藤)
車載用角形電池の進化を目指すトヨタとパナソニックが車載用角形電池事業の協業について検討を開始
トヨタ自動車㈱と、パナソニック㈱は2017年12月13日、車載用角形電池事業について協業の可能性を検討することに合意したことからその記者会見が行われた。今回の合意は、地球温暖化、大気汚染、資源・エネルギー問題という社会問題の解決に貢献し、電動車への需要と期待の高まりに応えるために、電動車の中核となる車載用電池のさらなる進化を目指すもの。