ドライバーの幸せが最重要課題豊かな労働環境の実現を目指す、全ト協 新会長に坂本克己氏が就任
月刊ITV 2017年8月号
発行:平成29年8月1日
発行所:(株)日新(HP)
執筆:大島春行・大西徳・伊藤慎介・井上元・岡雅夫・佐原輝夫・鈴木純子・中田信哉・西襄二・橋爪晃・宮代陽之
表紙・レイアウト:望月満
記事&編集:横路美亀雄・於久田幸雄
ドライバーの幸せが最重要課題豊かな労働環境の実現を目指す
全ト協 新会長に坂本克己氏が就任
公益社団法人全日本トラック協会(全ト協)は、2017年6月29日に第93回通常総会、及び第171回理事会を東京・新橋の第一ホテル東京で開催。任期満了に伴う役員改選では、星野良三会長(80、多摩運送会長)が退任し、新たに坂本克己副会長(78、大阪運輸倉庫会長)が会長に就任した。それを受け7月13日、第一ホテル東京で会長就任にあたっての記者会見が行われた。 坂本新会長は、「現場で働く人々にとって、豊かな労働環境を実現することを目指し、ドライバーの幸せに全力を尽くしていきたい」と、総力を挙げてトラック運送業界の発展に取り組んでいく姿勢を明確に表明した。さらに、「トラック運送業界は、いよいよここにきて、非常に素晴らしい業界になってきたと感じています。トラック運送業界が、いつまでも“生活と経済のライフライン”としての重要な役割を果たし続けるためには、何より現場で汗をかいて大変な苦労をしているドライバーの皆様に“この業界はいい業界だ”と思っていただけることが重要です。“ドライバーの幸せ”を最重要課題と位置づけ、労働環境をよくするなど、これから様々な施策を進めて行きたいと考えています」と語った。 具体的には、「ドライバーが普通に働けば世間並みの給料がもらえる、安心して働ける業界にしていくことが求められています。そのためには、荷主から適正運賃を収受できるような環境をつくっていく必要があります。全国の運送業者の皆様がしっかり運賃・料金を収受できる環境づくりを推進して行きます」と述べた。それと併せて、「長時間労働の削減、生産性向上といった“働き方改革”を進めていくことが必要です。国土交通省・厚生労働省の『トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会』も活用して、パイロット事業の成果を普及・浸透させ、長時間労働の削減、生産性の向上に取り組んでいきます」とも語った。 下請多層構造や第一種貨物利用運送(専業水屋)などの問題をはじめ、高速道路料金の大口・多頻度割引の恒久化などトラック運送業界を取り巻く様々な諸課題について、「業界としてまとまった意見をつくって、一丸となり、火の玉のごとく業界全体がまとまって解決していくことが最も重要」だとした。 任期満了に伴う役員改選では、坂本会長のほか、副会長に奈良幹男氏(北海道)、竹津久雄氏(全国)が新たに選任され、須藤弘三氏(宮城)、千原武美氏(東京)、小林和男氏(新潟)、小幡鋹伸氏(愛知)、辻卓史氏(大阪)、小丸成洋氏(広島)、粟飯原一平氏(徳島)、眞鍋博俊氏(福岡)が再選された。また、福本秀爾理事長が退任し、新たな理事長として桝野龍二氏が選任された。さらに、細野高弘氏の退任に伴い専務理事が空席となったほか、常務理事には山崎薫氏、松崎宏則氏、藤原利雄氏が再選された。なお、永島功常務は退任。星野氏は名誉会長に就いた。 全ト協は、「トラック運送業界からの最重点要望事項」をまとめ、7月10日、自民党トラック輸送振興議員連盟(トラック議連)の細田博之会長、赤澤亮正事務局長に対して、平成30年度税制改正・予算に係る最重点要望事項に関する要望を行った。 トラック議連の細田会長らを訪ねた坂本克己会長、桝野龍二理事長は、トラック運送業界の現状とともに、働き方改革実現のための諸対策に係る補助・助成や高速道路料金の大口・多頻度割引最大50%の継続などの最重点要望事項について説明した。 トラック運送業界からの最重点要望事項は次の通りとなる。1.働き方改革実現のための諸対策に係る補助・助成の創設・拡充
本年3月、「働き方改革実行計画」が取りまとめられ、自動車運転業務の時間外労働について、年720時間以内とする一般則が適用される5年後に、年960時間以内とする上限規制が適用されることとなった。政府では、取引条件改善などの取組を推進する一環として、商慣習の見直しや取引条件の適正化を一層強力に推進することとされたことを踏まえ、働き方改革に対応し、長時間労働抑制がさらに促進されるよう、中小企業に対する労働時間の短縮を支援する助成金の創設・拡充やトラック予約受付システムの導入、荷役作業の機械化など諸対策に係る補助・助成の充実を図られたい。2.高速道路料金の大口・多頻度割引最大50%の継続
トラック輸送にとって、高速道路の利用は、輸送時間の短縮及び定時性の確保等生産性の向上やドライバーの拘束時間短縮等労務負担の軽減、一般道における交通事故の削減や環境改善に大きな効果をもたらすため、今後も積極的に高速道路の利用促進を図りたいと考えており、また地方創生を推進する観点からも地方と大都市圏とを効率的につないでいる高速道路の利用は不可欠である。高速道路料金における大口・多頻度割引の最大割引率50%の措置は、ETC2.0搭載車を対象として平成30年3月末までとなっているが、トラック輸送が国民生活と経済のライフラインとしての機能を将来的にも維持し続けるため、この最大割引率を継続されたい。3.高速道路の積極的な活用に向けた諸施策の実現
トラック運送事業者がより高速道路を活用できるよう、以下の施策を実施されたい。 (1)全国の高速道路ネットワークの積極的な整備推進及びミッシングリンクの解消 (2)安全対策の推進(暫定2車線区間の4車線化、ワイヤロープの設置等) (3)渋滞対策の推進(ピンポイント渋滞対策、主要幹線道路の整備等) (4)自動運転や隊列走行の実現、ダブル連結トラックの導入推進など物流効率化のための取組推進(技術開発の促進や新東名の六車線化等) (5)その他の施策 ①ETC2.0によるサービスの拡充 ②SA・PA、道の駅における駐車スペースの整備・拡充や路外施設と連携した休憩施設の確保、スマートIC事業の活用4.自動車関係諸税の軽減
・軽油引取税は、一般財源化により、本来国民が公平に負担すべきであるにもかかわらず、「当分の間税率」と名前を変えてトラック運送事業者が負担を強いられており、「税負担の公平」の原則に著しく反していることから、少なくとも旧暫定税率相当分を廃止されたい。 ・また、トラックには過重な自動車関係諸税が課せられていることから、自動車税の引下げ、自動車重量税及び自動車取得税に係るASV(先進安全自動車)特例措置の延長・拡充など自動車関係諸税の軽減を図られたい。天職と考えて取り組んだトラック運送60年経営者自身が「この業界は良い」と信じることが大切
星野良三前会長退任のことば
平成23年6月から3期6年間、会長職を務めた星野良三氏(多摩運送㈱会長)が6月29日開催の第93回通常総会および第171回理事会で退任した。中西英一郎元会長の後を継いで全ト協会長に就任した星野氏は、東日本大震災発生(23年3月11日)直後という事もあって、大災害時におけるトラック運送の役割を前面に押し出し公共性を強く訴えた。その後も持ち前の行動力で全国の全てのトラック協会を自らの足で訪ね、地方のあり方に耳を傾けたことも特筆される。今総会で退任の挨拶を求められて、星野前会長はおよそ次のように述べた。 振り返ってみますと、私がこのトラック運送業界に入って、ちょうど60年になります。この間、私はこの仕事が嫌だと思った事は一度もありません。昭和41年の大不況があったり、石油ショックがあり、バブル崩壊があり…色々な出来事があったけれども、このトラック運送が私の天職だと思ってやってきました。 昔は東京から大阪に行くにしましても、箱根を越え、その先もいくつも難所を越えて辿りついていました。冬場にはラジエターの水が凍結しますから、毎日水を抜く訳ですが、そのお湯で顔を洗ったり身体を拭いりしたものです。当時のトラックはボンネットでしたが、道路も悪く、ボデーは重いし、雨が降ると荷台が水浸しになるので、シートを2枚も掛けていたけれども、これが重くて大変な作業でした。 現在のトラックはウイングですからシート掛けは必要ないし、積み降ろしもフォークリフトですから、力仕事は殆どないし、エアコンも完備しています。 このように振り返ってみますと、今、このトラック業界は非常に良い業界になっていると思います。長時間労働が今日問題になっていますが、この業界の特異性があることも確かです。また最近、運転者さんが足りない状況が続いていますけれども、先ず、ここに集まっておられる皆さま(運送経営の代表者)が、「このトラック運送の仕事ほど良い業界はない」と信じることです。社長が信じれば社員の皆さんも信じるようになります。従業員が信じれば会社全体も良くなります。 このようにして、業界全体が良くなれば、業界の外に居る若い方も注目して集まってくるようになります。いま一緒に働いている仲間を大切にして、新しい仲間も増やして頂きたい。 また、安倍総理がおっしゃっている生産性の問題…これも古くて新しい問題です。トラックで申しますと、積載効率を上げる、空車で走らない。その為には、運転者さんが気を利かせるように教育して、少しずつでも向上させる。そうすれば、この業界は更に向上することは間違いありません。 先ずは、素晴らしい業界であることを皆さんご自身が信じる事が大事です。私は本日、全日本トラック協会の会長を退任しましたけれども、トラック運送の仕事は生涯続けるつもりです。 本日まで全日本トラック協会の会長としてご支援、ご協力頂きました事に深く感謝申し上げますと共に、トラック運送業界の益々の発展を念願する次第です。 資料によると、全日本トラック協会の初代会長は昭和23年2月に就任した参議院議員の小野哲氏で、暫くは政治家が会長を務めていた。また、民間から就任する場合も“会長代行”の肩書になっている。筆者が物流記者として本格的に取材を開始したのは昭和44年からであるが、昭和56年に当時西濃運輸の会長であった田口利八氏が民間初の会長に就任しインタビューした記憶がある。それまで、全ト協は“政治団体”と思い込んでいたので、取材対象として興味が持てないでいたのであるが、そのインタビューで得た田口会長の印象が強烈で、トラック運送がこれから大きく変わる事を予感したものである。 それから30年、平成23年に星野氏が会長に就任して、記者懇談会などでお目にかかる機会も多くなったが、持ち前のダンディで気さくに応対される様子は、この業界の3Kイメージを払拭するに充分であったと言える。 今総会の懇親会席上で「今後の業界活動をどのようにお考えですか」と尋ねたところ、「できる事なら青年部の皆さんのご支援をしたい。」と回答があった。企業も後進の育成が明暗を分けると言われるが、トラック業界を想う気持ちは人一倍強いものをお持ちである。恐らく、全日本トラック協会の名会長として後世に語り継がれるに違いない。