【新春インタビュー】超小型モビリティとグリーンス ローモビリティの基準作りを
聞き手:横路(本誌)
田嶋 伸博 一般社団法人電気自動車普及協会(APEV)代表理事
昨年から今年にかけて、世界は新型コロナウイルスに翻弄されているが、他方では頻発する大規模災害で地球温暖化が待ったなし状態となっている。菅総理は就任早々「2050年カーボンニュートラル」を表明したが、自動車のEV化も日本は世界に大きく立ち遅れている。2010年6月に発足した一般社団法人電気自動車普及協会(APEV)の積極的な活動をもってしても、EV普及は期待した数字には至っていない。欧州や中国に大きく後れをとっている日本の自動車産業は、ここに来て俄かに動かざるを得ない状態に追い込まれているのである。そこで、今回はここ10年余りEV 普及に努めてきた田嶋伸博APEV代表理事に今後の取り組みなどについて伺った。
下積みとなったAPEVの10 年間
□横 路 新年早々、新型コロナウイルスの感染拡大で再度緊急事態宣言が発布されましたが、菅政権は就任演説で「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。その前に、東京都は「2030年までに純ガソリン車の新車販売をゼロにする方針」を明らかにしています。そこで、 本日はAPEV( 一般社団法人電気自動車普及協会)代表理事と㈱タジマモーターコーポレーション会長のお立場で、地球温暖化対策など今後の活動方針をお伺いしたいと思います。APEV は創立当初から私も関わり展示会も共同開催して来ましたが、日本のEV化は理想通りには進みませんでした。しかし、ここに来て東京都も国も目標年を明確にして脱炭素社会に取組む方針を明らかにしましたので、最早待ったなしの状態です。これを踏まえて APEVは今後、どのような活動を展開するお考えですか。
■田 嶋 APEVは設立から 11年になります。組織的にはその間に協議会から一般社団法人の協会になりまして、充電式の電気自動車(EV)だけでなく水素の燃料電池自動車(FCV)も対象に加えています。
□横 路 FCV は乗用車ではトヨタのミライやホンダのクラリティが商品化されているし、都バスも東京オリンピック・パラリンピック開催までに量産 FCV を 100 台導入することにしています。本 誌 はこれまで何 度も車体の大きいトラック・バスはEVよりもFCV が向いていると述べて来ましたが、APEV が協会になった時点で FCV も対象に加えたのは賢明であったと思います。そもそも論 に なりますが、APEV 設立時は政・官・学も加わって、未来の子供達に美しい地球
を残すためにEV化を促進する、という事でした。ところが、約10年を経ても日本の EV 化は海外に大きく後れをとっています
■田 嶋 APEV を設立する目的は、本来は大手自動車メーカーが進めるべきEV化ですが、諸事情があってなかなか進まないので、専門の団体を設立して促進することになった背景があります。特にその当時EVコンバージョン(内燃機関を電気自動車に改造する)の普及が始まったころで、一部のメディアや無知な自動車評論家が、簡単に誰でも EVコンバージョンが出来るとアナウンスしていた。我々は安全にEVコンバージョンを進めるために、国土交通省と一緒にガイドラインや教本などを作って、全国各地はもとよりフィリピンでも研修会や講習会を開きました。その結果大きな事故もなく今日に至っておりますし、フィリピンでは安全規定にも採用されております。
□横 路 諸事情とは・・・具体的には?
■田 嶋 ご存知の通り、自動車は全てを大手自動車メーカーが作っているのではなくて、大小様々な部品メーカーが全国にあって、幅広い産業構造を形成しています。現在主流の内燃機関の自動車がEVになると、部品点数は約10分の1になると言われています。そのため、大手自動車メーカーがEV化を一気に進めると、この産業構造が崩れて日本経済は大打撃を被ることになります。それで、日本政府はハイブリッドプラグインプラグインハイブリッドなどを中心に、省ネ、クリーン化を進めた訳です。
□横 路 自動車産業は日本経済で非常に大きなファクターを占めますから、その方向は間違っていなかったと思うし、日本車が世界で大きなシェアを獲得する要因になったと思います。
■田 嶋 ところが、中国や欧州はその間に強力にEV化を進めて来ました。日本も日産や三菱が量産の EV を発売しましたが、普及するには至らなかった。
□横 路 その原因は何だったのですか。
■田 嶋 EV 化を手掛けた際
に開発する車種の選定を誤りました。日本のメーカーは軽自動車や大衆車を電動化することでEVを発表しました。元々手軽に購入出来て、維持費も安いのがメリットの大衆車に対して、高価なリチウムイオン電池を組み合わせたことが失敗の原因です。成功したテスラは対照的で、最小に手掛けたのはスポーツカーをEVコンバージョン化、その後は1000万円を超える高級車へと車種を広げていきました。高級車の価格体系ならば、高価なリチウムイオンバッテリーの価格も何とか受け入れられると考えたのです。それが大成功しました。量産が増えてリチウムイオンバッテリーの価格が下がってきたところで大衆車へと車種拡大。さすがイーロン・マスクCEOだと思います。もちろん充電インフラが進まなかった事も多少は影響しましたが。
□横 路 国も補助金を出してEV の普及活動を促進しましたが、それでもEVは遅々として伸びなかった。その間、APEVはどんな活動を展開していたのですか。
■田 嶋 先 にもお 話したように、本来は EV も含めて大手自
動車メーカーが取り組むべきテーマだった訳ですが、それでは進まないので、我々は地域で夢を抱いて立ち上がって来たベンチャー企業や中小企業を支援するところから始めた訳です。
□横 路 当初はEVコンバージョンが主な活動でしたね。
■田 嶋 低価格で低速の EV
は構造がシンプルですので、一般の小さな会 社でも技術力があれば開発できます。電動ゴルフカートのようなEVですね。それで多くの会社が名乗りを上げて来ました。ところがEVも公道を走る自動車ですから、安全が担保されなければなりません。当時は通常のガソリン車のエンジンを降ろしてモーターやバッテリーを搭載する手造りEVコンバージョンもありましたが、その構造や装置も道路運送車両法の関係法令に適合する必要がありました。そこで、APEVが中心となって国土交通省・関東運輸局の協力を得て、そのガイドラインと教本を作成した訳です。
□横 路 確かに構造はシンプルですが、EVは高電圧が流れていますから、一歩間違うと人命にも関わりますからね。
■田 嶋 そうです、特に直流は低電圧でも取り扱いを間違えると、とても危険です。他にもグローバルでは多くの充電方式が開発されてきて、共通化などEV普及のためにやらなくてはならない課題が沢山ありました。
□横 路 その意味ではAPEVの活動も間違っていなかった。それなのに日本のEV化は進まなかった。
■田 嶋 日本のEV化が進まなかった要因は色々あります。ただ、その時点では大手自動車メーカーも、バックグラウンド ( 産業構造 ) を考えて最善な選択をしたと思いますし、APEVも同様に最善を尽くして参りました。ここに来て大 切なことはEVが普及しなかった原因を追究することよりも、これからどうやって世界の流れに沿ってEVを普及するか、という点です。世界中の国々が官民一体となってEV普及に全力で取り組んでいます。日本もこれ以上遅れるわけにはいきませんね。
米国パイクスピーク「殿堂入り」を果たしたモンスター田嶋祝賀会に駆けつけた福武總一郎APEV名誉会長(左)
先ずは2025 年大阪・関西万博を目標を
□横 路 そうですね。日本の自動車関連 5団体は、今年の正月『 私たちは、動く。』という全面広告をマスコミに掲載しましたが、大手自動車メーカーも大変な危機感があるように思います。
■田 嶋 実は、菅政権が「2050年カーボンニュートラル」を発表する前に、欧州と中国は目標年を決めて脱 CO2を進めていました。その意味では EV化に立ち遅れた日本の自動車産業界も、ここに来て新方向を模索している訳です。APEVはEVコンバージョンだけではなく、「国際学生EVデザインコンテスト」など様々な活動を地道に展開してきました。その活動がここに来てやっと開花することになります。APEVとしては、大手自動車メーカーが手掛ける量 産型のEVだけではなくて、新たに夢を抱いて参入するベンチャー企業やローカルの中小事業者が落ちこぼれないように、様々な支援、および協力をしていく考えです。
□横 路 具体的には?
■田 嶋 例えば、 電 動クルマ椅子とかシニアカーといった小型の低速車両のほかに、国土交通省・経産省・環境省などが推し進める、超小型モビリティと呼ばれる低速車両があります。大手自動車メーカー が 手 掛 ける車 両 は、 高速道路を走行できる大型車から軽自動車までたくさんの車種が量産されていますが、その下のランクがまだヨーロッパのように明確に分けて規定されていません。つまり超小型モビリティやグリーンスローモビリティと呼ばれる低速車両も、通常の量産型の自動車と同じ規定のカテゴリーになっています。この軽自動車より下のランクの超小型モビリティは最高速度も 40㎞/h 前後程度で高速道路も走らないし、安全に対する考え方も異なるものでなくてはなりません。車両が衝突した際の衝 撃は速度の二乗に比例するので、時速120㎞/h で走行する軽自動車と最高でも 40㎞/h 前後でしか走らない超小型モビリティが同じカテゴリーというのは、おかしい訳です。しかも軽自動車未満の車両は、大手自動車メーカーの殆どが手掛けないので、APEV としては低速車両の普及を推進して参りたいと考えています。このクラスについては新たな基準を作成して、少子高齢化が進む社会的なニーズに応えるべきだと考えています。
□横 路 本誌は昨年5月に新時代に対応して誌 名を『 ITV 』に改題して世界の次世代ビークルを紹介して来ましたが、一般の人が知らないEVは沢山あります。確かに大 手自動 車メーカーの資本力、開発力は強大ですが、海外で成功したベンチャー企業のように、日本でも中小企業が開発する面白いクルマもやっと出番がきたかな、という感じです。
■田 嶋 その意味でも新たに参入する超小型モビリティやグリーンスローモビリティを製造する企業には、是非 APEV に入会して我々と一緒に活動して頂きたいと願っています。
□横 路 APEVは最近走行実験が始まっている低速の自動運転バスなども対象になるのですか。
■田 嶋 本誌にも掲載頂いた「国際学生EVデザインコンテス
ト」の課題には、未来の都市空間のあるべき姿も含まれています。EVは環境に優しい移動手段であって、 都 市を構成する建物や環境、文化などとも密接に関係しています。我々はそういう広がりの中で必要とされるものを?、未来を担う優秀な学生さんと共に提供していきたいと考えています。
□横 路 今後の活動ですが、APEV の当面の目標は何でしょうか。
■田 嶋 APEV の目標 は『2025年大阪・関西万博 』までに少しでもEVの普及が進むことです。世界中の目線が大阪万博に集中する時に、大手自動車メーカーには、この万博で世界に負けないEV、FCVをたくさん開発して展示して欲しいと思っています。我々APEVは、大手自動車メーカーがあまり手掛けない低車両の、超小型モビリティやグリーンスローモビリティ、次世代型自動車を提案したいと思います。
□横 路 私も団塊世代ですので、運転免許証を返納する時期も近づいていますが、高 齢者の移動手段については、国も地方自治体も本気で取り組んでいるとは思えません。判断力が低下した高齢者が時速 100㎞/ hで走る車両を運転することには反対ですが、高齢者も出来る範囲で豊かな老後を送りたい気持ちは共通しているので、文化レベルの高い社会はあらゆるニーズに応える社会だと思います。
■田 嶋 同感です。最近人口が減少した過疎地では電車やバスなどの公共交通が廃止になっているし、核家族化で子供達も自立して家を出ているので、高齢者だけが取り残されています。そういう交通弱者に対しては、二次交通としての自動運転であったりグリーンスローモビリティの普及なども進める必要があります。交通弱者を救う活動、これもAPEVの大切な活動だと思っています。
□横 路 APEV が発足した当時、多くのEVメーカーが出現しましたが、その殆どは事業として成立しなくて撤退してしまいました。ところが、ここに来てEV化は世界に立ち遅れた中で、国を上げての取り組みですから、また新たな夢を描いて進出してくるベンチャー企業も多いと思います。そういう企業は資本力も信用力も弱いのでAPEVが受け皿となって育てる考え方も必要だと思います。
■田 嶋 当然です。我々APEV は、地球温暖化を止めるという大義がありますので、その活動に参画頂ける企業はベンチャーでも大歓迎です。
□横 路 APEV のメンバーで現在もEVを製作している企業はありますか。
■田 嶋 大手自動 車メーカーを除くと EVメーカーは私の会社(株式会社タジマモーターコーポレーション)だけです。EVの部品メーカーは会員として残っていますが、EVを手掛けたベンチャー企 業は全 社 撤 退してしまいました。ここに来て、EV化の第2波が訪れていますので、APEVとしては新しい会員を募ってEVの普及を進めていきたいと考えています。
□横 路 なるほど。その先には「大阪・関西万博」が見えているので、目標も明確ですね。その第2波ですが、何社位が見込めそうなのですか。
■田 嶋 具体的にはまだ見えません。ただ、この超小型モビリティやグリーンスローモビリティは地方創生とも関係しているので、各地方に一社位の割合で育ってくれれば理想的ですね。
□横 路 なるほど。多すぎても競争が激化して成り立たなくなる危険性があります。
■田 嶋 競争が激化するほど増えてくれればうれしいことですが、APEVの目的 は、EVの 普及なので、協力して共に発展する会員を、幅広く全国から募集したいと思います。
タジマ EV で開発した超小型モビリティ
低速車は独自の基準で大衆化を
□横 路 個々の企業ではやりにくい事も APEVなら業界共通のテーマとして活動できますので、好結果を得やすいですね。
■田 嶋 そういう意味では我々は今ふたつのテーマを抱えています。その一つは先ほど申し上げた軽自動車未満の低速車両に適合する基準をつくる事です。安全は速度に対して二乗で危険度が増していきます。時速 120㎞/ hで高 速 道 路を走る事 のできる一般自動車は、その速度に対応した安全基準が必要ですが、40㎞/ h 前後しか出ない超小型モビリティは衝撃が小さいので、一般自動車と同じ安全基準は必要ない訳です。もう一つは運転免許制度です。 低速でしか 走らない車両に対しても高速道路を走ることが出来る普通運転免許が必要なのは変ですね。
□横 路 運転免許に関することだと道路交通法ですが、 昔は軽自動車だけを対 象にした運転免許がありましたが、そんな感じですね。
■田 嶋 そうですね。以前あった軽自動車免許のように、低速車両の超小型モビリティの運転免許は16歳から取得できるとか、高齢者も判断力テストに合格すれば乗れるとか、万が一の安全対応をした新しい規格の低速車両には、それに対応した運転資格の整備が必要だと思います。但し安全をどうやって担保するか、今後APEV内でも議論をしながら取り組んでいきたいと考えています。
□横 路 欧州の超小型モビリティの制度はどんな感じなのですか。
■田 嶋 L6とかL7とか、免許がなくても乗れる低速車両が存在します。日本ではこの低速車両(超小型モビリティ)に対する制度改革を国土交通省が検討しています。このクラスは当然 EV が主な対象になりますので、APEVとしても積極的に取り組む考えです。 欧州では、「Quadricycle(クワドリシクル)」と呼ばれる小型自動車が存在する。 一般乗用車より軽く「LightQuadricycle L6」「Heavy Quadricycle L7」の 2つの型式認定を規定。また電気自動車についても同様に「LightQuadricycle L6e」「HeavyQuadricycleL7e」の 2 型式を規定している。このL6とL7車両は法律上、車体質量、設計速度、動力源の排気料、出力などで区分されているが、車体の大きさについては定義していない。
□横 路 そのような活動をAPEV が行う事で、新しい制度が出来るのであれば、APEV 会員とアウトサイダーの違いがあっても良いのではないかと思います。
■田 嶋 特にそのようなことは考えていませんが、協会に入って一緒に活動して頂くことで、色々な情報がリアルタイムで入手できるので、EV 普及活動にも大いに役立つと思います。我々としては、APEV の立場で現在の社会ニーズに合った車両制度と、 それを安全に普及するための免許制度を、APEV 内で検討していき、いずれは政策提言をしたいと考えています。 法律ですから、最終的に決めるのは国ですが、その必要性について研究、検討して関係者に政策提言するのがAPEV の役割だと考えています。
□横 路 L6とかL7とか、欧州にあるのに日本にないのは何故ですか。
■田 嶋 それは馬車から乗り物が進化していき、オウンリスク(自己責任)文化が確立している欧州と、日本は農耕民族なので、 道路が狭く曲がりくねった農道が多いにも関わらず、急激に自動車産業が発展し、一気に自動車が全国に普及したため交通事故が多発し、安全面から何でもルール化したい役人が厳しい免許制度を導入した。つまり歴史と文化の違いではないかと思います。
□横 路 なるほど・・・。今でこそ日本の自動車産業は世界に進出していますが、歴史も文化も大きく異なりますね。乗り物に対する価値観を改めて考え直す必要があると思います。その新しい制度のつくり方、方法論ですが、APEV が中心となって学識経験者や技術者など集めて委員会を立ち上げるにしても、日本は役所が OK して政治が決議しないと法律はできません。この委員会には官僚も政治家も入ってもらうと結論が早く出るのではないでしょうか。
■田 嶋 その通りです。実はこれまでも関 係 する役 所 や 政 治家の皆さんにも相談しながら進めています。ただ、こういう話は関係者が顔を揃えて納得いただく必要があるのですが、この新型コロナの関係で集まりにくいのが実情で、定期的にテレワークを開催しています。
□横 路 いま、新型コロナはその渦中ですが、それほど遠くない時期に終息すると思います。その時に備えて今は準備する時期かも知れません。
■田 嶋 これまでも議論は尽くしています。要は新しい制度をつくる方法論ですね。
最優秀賞グランプリ受賞のHAL東京APEXチーム。左端は中村史郎審査委員長
FCV は少ない水素の充填ステーションが課題
□横 路 なるほど、そうですね。ところで、協議会から協会に組織変更した際に、水素のFCVも対象に加えたという事でした。FCV は既に乗 用 車の量 産 車も販売されていますが、登録台数は遅々として伸びないのが現実です。その原因のひとつが水素(H2)の充填ステーションが少ないことだと言われています。本誌は環境問題を背景に国が「水素社会実現を促進する研究会」を設立して FCV の普及に取り組んできたことを何度も取り上げました。APEV は 11 年前設立の目的が EV でしたので FCV のイメージは希薄です。FCV 普及にはどのような取り組みを行ってきたのですか。
■田 嶋 当然、水素を対象にした活動も展開しています。ただFCV はまだ揺籃期ですから、具体的にはこれからです。
□横 路 私は、関係する政治家インタビューを契機に、トラック・バスユーザーの協力を得て、水素(H2)ステーションの拡充を促進するべきだと主張しているのですが、現実にはユーザーの意識が弱くて実現はほど遠い感じです。ただ、FCV は車体の大きいトラック・バスには最適で、自動車メーカーは既に実験車両が完成しています。2030 年には無理かも知れませんが 2050 年は待ったなしですからAPEVとしても積極的に取り組むべきではないでしょうか。
■田 嶋 もちろん議論は尽くしています。ただ実情が伴っていないので対策を講じる段階には至っていないという事です。
□横 路 その点については、全日本トラック協会や日本バス協会も交えて水素(H2)ステーションの在り方を研究すると良いと思います。
■田 嶋 実は当社でも実験用にFCV のMIRAIを導入して実際に走らせていますが、一回の充填で走行できる距離が想像以 上に短くて、水素を充 填できるステーションも少ないので、ドライバーも不安が先に立って実 用にはほど遠い状況です。水素ステーションは国が多額の支援をして建設を進めていますが、まだまだ足りません。しかも充填する時間や場所の制限があってとても不便です。
□横 路 その方法論として、トラック・バス業界の協力を主張してきたのですが、まだ現実問題として認識する段階には至っていません“。油断”という言葉がありますが、日本に化石燃料が入らなくなるとか、 高 騰して運送の採算が合わなくなるとか、何らかのアクシデントが発生すると理解が深まるかも知れません。
■田 嶋 FCV については、理論上は皆さん判っていると思います。ただ、その時期については、せっぱ詰まった状況にないので、政治が先導しても進展が遅いという事だと思います。APEV としては、その実情も踏まえて FCV普及に取り組む考えです。
□横 路 本誌もトラック・バスを対象にした水素ステーション拡充を目的にした協会を設立して、FCVの普及に貢献したいと考えているのですが、新型コロナの感染拡大で足踏み状態です。
■田 嶋 FCVは実際に使ってみると判りますが、ステーション不足が最大の課題です。とにかく不便です。
最優秀賞グランプリを受賞したHAL東京APEXチームが提案した「COCOON」
「COCOON」は世界中の子供たちのための “ 動くEV学校 ” である
次世代ビークルも主な対象に
今回は国として「2050年カーボンニュートラル」を表明した訳ですから、政策としても水素ステーションの拡充を進める必要があります。FCVの問題点とAPEVの取り組みは判りました。最後に、田嶋さんのタジマモーターコーポレーションの取り組みも少しお話下さい。
■田 嶋 当 社としては、 先 ほどもお話ししたように大手自動車メーカーが手を出しづらい、低速車両の超小型モビリティやグリーンスローモビリティを開発して普及したいと考えています。現在のところ APEV の中でそれらの車両を製作できるのは当社しかありませんので、そのモデルをAPEV会員に対してオープンソースにして、普及に結び付けたいと思っています。
□横 路 具体的にはどういう形でAPEVの会員に貢献するのですか。
■田 嶋 例えば、EVの高電圧からドライバーを保護するためのR100規定が道路運送車両の保安基準の細目にありますが、これをクリアする為にはクラッシュテスト、振動テスト、耐久テスト等を国の機関で受けなければなりません。大きな費用がかかりましたがそれはタジマモーターコーポレーションで負担し、テストは当社とAPEV が協 力して通しました。現在R100を通したバッテリーは大手自動 車メーカー以 外では当社だけです。このバッテリーは当社が独占するべきものではありませんから、APEV会員には当社から提供することが出来ます。そういった事もひとつのモデル例です。
□横 路 なるほど。 資本力の弱いベンチャー企業や中小企業は助かりますね。そういう意味ではバッテリー以外にもいろいろモデルは出来る可能性がありますね。
■田 嶋 それはタジマモーターコーポレーションの中のタジマEV事業部の役割です。
□横 路 田 嶋さんの会社は次々新しい部品を開発していますが、ビジネスとして成立しているのですか。
■田 嶋 当社も企業ですからビジネスを考えて開発する訳ですが、独占しようとは思っていません。これまでの自動車産業は殆どの場合開発しても情報公開はしないし、他社へも販売しません。ところが、我々が目指している分野は、弱小資本の中小企業が殆どですから開発力も弱い訳です。しかし、環境に対する理念は共通していますので、私としてはその夢を抱いて参画される企業は、同じ仲間として共に発展したいと考えています。
□横 路 最近は「2050 年カーボンニュートラル」表明を機会に、EVやFCVが話題になっていますが、自働動車にもAI(人工知能)やIOT(モノインターネット)が搭載される時代です。自動運転と同時に自動車のロボット化も進んでくると思います。本誌はそれに先駆けて誌名を ITV(インテリジェント・トランス・ビークル)に改題した訳ですが、この先自動車に対する価値観は大きく変わるように思います。その点、田嶋さんはどのようにお考えですか。
■田 嶋 技術は常に進化します。 それは人間本来の知恵だと思います。AIやIOTに限らず、通信技術もどんどん進 化していきます。それを取り入れながら企 業も業 界も発 展 する訳ですから、APEVも必要に応じて変化すれば良いと思います。地球温 暖 化を止 めこの 美しい 地 球を次世代に残す、カーボンニュートラルを目指す活動は一貫しています。APEV が目指すEVやFCV普及の中でも、ユーザーの高齢化や安全問題は避けて通れません。EVやFCVも社会とマッチングして活動するものですから、先進技術や次世代技術もどんどん取り入 れて社 会 の 利 便 性に応えなければなりません。その点は大手自動車メーカーの理念と全く同じです。しかし交通弱者でも手の届くモビリティとしてのコスト管理がとても大切だと思います。
□横 路 大手自動車メーカーの業界も、自動車に対する価値観が大きく変わる時代を迎えていますので、「変革」を大きな目標に掲げています。本誌としては、ベンチャー企業や弱小企業であっても、その夢を大切に応援したいと思います。本日は新型コロナの緊急事態宣言の中、有難う御座いました。
カーボンニュートラル研究
公共性の高いサプライチェーンをつなぐロジスティクス機能を担う多くの本誌読者は、現在保有し動かしているトラックの一般的耐用年数からみて、どの時点で新しいグリーン機材に切り替えるべきか、に関心を寄せているのでないか。今号では、このような観点での取り組みを紹介したい
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